GrowVerse
シナリオ

記憶質屋2

「いらっしゃい」 路地裏の質屋に入ると、カウンターの奥から男の声がした。 薄暗い店内には、大小さまざまな瓶が並んでいる。 『七歳の夏休み』 『初めて恋をした日』 『父親に殴られた夜』 瓶に貼られた札を目で追っていると、 「売りに来たの?」 カウンターの上に、黒猫が一匹。 琥珀色の目で、あたしを見ていた。 「……猫」 「猫だね」 「喋った」 「喋るよ」 奥から男が出てきた。 この店の主人――かな? 「店主。客だぞ」 男が黒猫に言う。 「店主?」 「そいつ」 黒猫が尻尾をゆらりと振った。てんしゅって名前らしい。 「で、何を売るの」 あたしは鞄から、小さな紙を取り出した。 ここへ来る前に書いておけと言われたものだ。 ――忘れたい記憶。 黒猫が紙を覗き込む。 「ふうん。男?」 「……はい」 「振られた?」 頷く。 「何年付き合った」 「四年」 「長いねえ」 「結婚すると思ってました」 「そう」 「来月、結婚するんです。あの人」 「別の女と?」 また頷いた。 黒猫は前足を揃えて座った。 「いくらになりますか」 「そうだねえ」 店主はしばらくあたしを見ていた。 「三千円」 「安っ」 思わず言ってしまった。 「四年ですよ?」 「年月で値段は決まらないよ」 「じゃあ、何で決まるんですか」 「その記憶を欲しがる人間がいるかどうか」 何も言えなかった。 黒猫は大きなあくびをした。 「こんな悲しい記憶、さっさと売っちまいな」 「店主」 奥の男が咎める。 「なんだよ。本当のことだろ」 あたしは笑った。 ここへ来て初めて笑った気がする。 「じゃあ、売ります」 「毎度あり」 黒猫が尻尾を振る。 男が棚から空の瓶をひとつ取り出した。 「目を閉じて」 言われたとおりにする。 四年間が、頭の中を駆け抜けていく。 初めて手を繋いだ日。 喧嘩した夜。 誕生日。 海。 笑った顔。 最後に言われた、ごめん。 ――そして。 目を開けた。 「……あれ?」 何かを忘れた……? でも、何を忘れたのか分からない。 目の前には黒猫がいる。 「はい、三千円」 「ありがとうございます」 お金を受け取って、店を出ようとする。 「お嬢ちゃん」 振り返ると、黒猫があたしを見ていた。 「次は、もうちょっと高く売れる記憶を持っておいで」 「高い記憶?」 「幸せなやつ」 「それ、売っちゃうんですか?」 「売らなくてもいい」 店主は目を細めた。 「見せに来るだけでもいいさ」 外へ出る。 なぜだか少しだけ、お腹が空いていた。 今日は何か、おいしいものを食べて帰ろう。 そう思った。

路地裏にひっそりと佇む、記憶を売り買いする質屋。カウンターにいる黒猫は、なぜか「店主」と呼ばれている。失恋の記憶を売りに来た女の子に、店主は「こんな悲しい記憶、さっさと売っちまいな」と言うけれど――。少し不思議で、少し優しい記憶質屋の日常。

制作方法
AI生成
使用AIツール
ChatGPT
年齢区分
全年齢
ファンタジー 現代ファンタジー 記憶 黒猫 不思議な店 失恋 日常 掌編

他クリエイターへの禁止事項

記憶質屋には、今日もさまざまな記憶を抱えた客がやってきます。売りたい記憶、買いたい記憶、決して手放したくない記憶――。黒猫の「店主」と店員を交えて、この店を訪れる人々の物語を自由に描いてください。

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